短編集 本文

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 手荷物はおろか、ピアスやチケットまで「Bチャネルの箱」とやらに入れて、僕は緑色の手術用の薄手のガウンに着替えてその装置の「Aチャネルの寝台」に寝そべった。しばらくの沈黙があった後、放射線科の医師が大声を出した。 「息吸ってー」 濃密な酸素が出ているのだろうか、一気に気分が爽快になった。 「はい、止めて!!」  ガシャン、という衝撃音が聞こえたかと思うと、身体は重力を失って行った。次いで、ヒュインヒュインと、僕をスキャンする音が聞こえた。網膜には……もう網膜は符号化されていて実体化されていないのだろうけれど、意識の中の画像には「転送率60%」といった進捗状況が表示された。僕はどこへ行くのだろう……意識というか、魂というか、実態のない僕が、どこかを急速に流れながら移動していることだけがわかった。  転送率67%……転送率73%……転送率94%……で、画面が急に止まった。まわりじゅうが静かになった。あれ、僕は転送されるはずだけれども、ミリオンエクスプレスってこんなんだっけ? 何かがおかしい気がした。刹那、画面が暗転し「サージ電圧発生中 バックアップモード」の画面に切り替わって、フェードアウトするように光は消えた……僕は眠るように意識を失った……。  あれから、幾らほど時間が過ぎたのだろう……。再度、画面がフェードインするように光が復活した。転送率は94%から徐々に復帰しつつあったが、画面の動きが先程よりも遅い。あれ、ここはどこだろう……今はいつ? 今何時? ……気にする僕に気になるメッセージが表示された。  「ミラリング復帰成功 記憶ポインタ部分損傷」  記憶……ポインタって何だ? そういえば記憶……あれ、僕はどこに行こうとしてたんだっけ……。誰と会うんだったっけ……。ここはどこだろう……。  気がつけば、僕は息をふうっと吐いていた。僕は装置の中で全裸で、一応身体は無事らしかった。あらゆる関節を動かしたが何ともない。欠損している部分もないらしかった。ここは本当に大阪なのか。僕はここがどこなのかが全く分からなかった。  「何だここはっ!!」  「き、気が付かれましたかー、あのー、す、鈴木さーん」「あの、あなたは誰、ここはどこですかっ」「東京の病院の看護士です」「は?」
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