短編集 本文

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 どうやら僕は大阪から「ミリオンエクスプレス」なるものに乗せられてここまで来たらしいのだが、どうやら何をしに東京に来ているか、それに、今がいつなのか、なぜここに寝そべっているのかがわからなかった。  「と、取りあえず、着替えをくださいっ、な、何か着せてください」  「わかりました、これです。カーテン閉めておきますので、ご、ごゆっくり」  大変ですー、鈴木さんが大阪から無事に来られましたーという看護士の甲高い声がした。  すると、「ご無事ですかっ!」と白衣の医師団がカーテンをやおら開けるので、僕はびっくりしてGパンとTシャツを身体にたぐり寄せた。  「と、取りあえず、着替え中なので……あなたがた一体……」  「記憶ポインタが飛んだということで、大変申し訳ない。あなたは今、ほぼ無事に東京に着きました」  「ほ、ほぼってどういうことですか」「記憶のポインタが飛んでしまったのです」「はあ?」  「取りあえず、Bチャネルは無事だったので、荷物は無事です。着替えてください」  「ぼ、僕の身体は?」「取りあえず記憶のポインタを除いて全部無事です」「ここは大阪じゃないんですか」「いいえ、東京の病院です」「そ、そんな……」  僕はGパンのジッパーをじーっと上げると、周囲を見回した。何だか見慣れた機械だが、少し前のことは余り思い出せない。確か、腰を痛めて大阪の病院に行ったことは記憶にあるのだけれど……。着替えが終わると、僕は見慣れない荷物にぎょっとした。  「何だろう、この大荷物は……僕は、家出でもするつもりだったのだろうか……」  「す、鈴木さん、ちょっとこっちへ」  「は、はいっ」  僕は医師団が待ち構える席に着席すると、医師が重い口を開いた。  「このカタログ、覚えていますか」「ああ、コミJですよね、来月開催される……」「って鈴木さん、これって今日から開催のイベントですよ」「あ、そうなんですか?」  医師団は首をかしげて、まるで難民でも見つめるような困った表情を浮かべた。  「あのー、このパンフレット、見覚えありますよね、ミリオンエクスプレス……」  「はい……来月乗る予定だった、あの人体を転送するあれですよね」
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