『白鳥啓介』

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「お気持ちは分かります。」 大神先生の優しげな視線に私は何も返すことが出来ない。 たしかに私の最後の記憶は、自分からこぼれ落ちる脳を拾うというありえない妄想を最後に途切れている。 しかしようやく意識がはっきりしたと思えば1年半も過ぎていると言われても こんな現実に即座に対応出来るほど私は優れていない 「色々と思うところはあるでしょうが、ゆっくりと認識していきましょう。お腹は空いてませんか?」 言われてみれば夕陽の具合からそろそろ夕食の時間であることが分かる。 「少し、空いてます。」 「じゃあ。食堂に行きましょう。班員のみんなも心配してましたよ。」 班員……?大神先生からの聞き慣れない言葉に私は疑問を抱いたが、すでに大神先生は部屋のドアに手をかけ私を待っている。 聞き返す暇もなく、私は彼の後を着いていくしかなかった。 「このライヒマン病院には、現在700名前後の患者さんが共同生活を送ってます。白鳥さんがいるのは第二病棟第7班ですから、もし日常生活で分からないことがあったら班員の方に聞いてください。」 大神先生のうしろに着いて食堂に向かう道すがら、軽く病院の仕組みについて教えてくれた。
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