『白鳥啓介』

12/32
前へ
/32ページ
次へ
この病院では入院患者の自主性に合わせて、日常的な業務は患者たちにより行われているそうだ。 清掃、調理、売店の経営……処方薬に関することを除いて、施設のほとんどが患者の手に委ねられている。 精神を病んだ患者にそこまで任せるとは……ずいぶんと変わった病院だ。 たしかに周りを見回すと、私が身につけている緑の入院服と同じものを着た人達が楽しげに語り合っている姿を見掛ける。 しかし、中にはお洒落な私服に身を包んだ者もいる。あれは患者の家族だろうか? 「もし入院服が気に入らないなら、第三病棟のショッピングセンターで服を購入してください。」 私が周りをキョロキョロしてる意図に気付いたのか、大神先生が教えてくれた。 「ショッピングセンター……?病院にそんなのがあるんですか?」 「ええ、ここは病院というよりひとつのコミュニティだと思ってください。一般生活の中で可能なことは、この施設でも行えますから。」 ひとつの、コミュニティ たしかにこの病院は私が思っているよりもはるかに大きいようだ。 もう、すでに10分近く歩いてるはずだが食堂にまだ着かない。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加