『白鳥啓介』

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『お金や、時間的に苦しいのが別れる理由なら同棲しよう。』 終わってなるものか。 私はなかば彼女に食いつくように言葉を返す。彼女の優しい嘘に黙って付き合ってあげられるほど、私に余裕はなかった。 『それは、そのう、やっぱりまだ同棲出来るほど余裕ないし……』 言葉を濁しながら断りの理由を探す彼女は、本質的な別れの理由が「勉強に集中したい」という綺麗なものではないと自分で語っていることに気付いてないのだろうか。 本当は、私と付き合うのに疲れたんだろう とにかく、その日、私と彼女の関係は終わりを告げた。 人間は、なんのためなら苦痛を受け入れるのだろうか。 自分の欲望?大切な人のため? クシャクシャに倒れかけていた私の心は、 その日から完全に崩れ落ちた。 それからは早かった。 ちょっとした不注意を少し罵られただけで私の涙腺は崩壊し、執拗なまでに私を攻撃する上司の暴言はさらに激化した。 『泣けば許されるとでも思ってるんだろう。このクズがよぉ』 『病んでるのか?死にたいのか?死ねよ、1日でも会社休ませて少しは俺に楽させてくれよ』 女性1人幸せに出来ない役立たずのクズは死ぬべき、という強迫概念が日増しに私を襲う。
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