『白鳥啓介』

6/32
前へ
/32ページ
次へ
彼女に別れを告げられて1ヶ月、 4月11日 その日も私は些細なことで上司に胸ぐらを捕まれ、何度も何度も蹴り飛ばされていた。 理由は確か、スーツの上下で微妙に色の違うものを着ていたから 彼女と別れたあと、私は上司に『女なんて風俗いって忘れろ』と毎日デリヘルを呼ぶように命令された。 本来ならキャバクラやスナックを含め、風俗に私は興味がない。そんな私にデリヘルなど全く興味がない話だ。 お金がない、とささやかな反抗を試みたが『消費者金融からでも借りろ』という命令に私は逆らえなかった。 様々な強制的な会社の付き合いによって、私にはスーツを買い換えるお金がなかった。 お客と会う予定があるわけでもなく、ただ会社に座っているだけの私が、よくよく見なければ気づかない色ちがいのスーツを着るのがそんなに上司にとって重要なことだったのだろうか。 いつものこと 周りの先輩社員は何事もないかのように上司の怒鳴り声の横で自分の仕事を続けている。同期や後輩は、この環境に耐えかねてすぐにいなくなった。 ようやく怒声から開放されて、目一杯蹴り飛ばされてスーツについた足跡の埃を払ったとき、たまたま職場に誰もいなくなり、みんな席を外していることに気付く。 私は、財布とケータイだけを持ってフラフラと会社のビルから抜け出した。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加