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小洒落た庭付きの新興住宅地を抜けると、古い大きな家々が姿を見せ始める。
それらは皆、我こそがここの主だと言わんばかりに存在感を示していた。
あるものは、年月を経て色褪せたレンガの壁に妖艶な蔦を張り巡らせ。
またあるものは静寂こそが真の美だと言わんばかりに、広い石庭にししおどしの音を響かせる。
家々の裏口は細い路地に繋がっているが、そこから出入りする家人の姿は見当たらない。
はみ出した庭木。
庭のように置かれた鉢植え。
そういったものが、狭い道を一層狭くしているせいかもしれない。
路地を更に奥へ奥へと進んで行くと、突然丁字路に突き当たる。
そこを曲がるとふいに姿を現す一軒の店。
濃い緑色に塗られた模様入りのすりガラスの入った扉。
見事な輝きを放っている飴色のドアノブ。
真っ白な壁。
レンガ作りの床。
ドアの上部には小さな文字で『Antique and Costume jewelry』と書かれている。
店名はない。
壁には正方形の小さなはめ殺しの窓が二つあり、店内の様子を覗くことが出来る。
中には、ショーケースに並べられた美しい宝石の数々と、寄り添うように置かれた二匹の黒い子猫の置物。
目には海のように深いブルーと鮮やかな新緑色のグリーンの宝石が嵌めこまれ、キラキラと光り輝いている。
辺りがすっかり暗くなった頃、ひっそりと店の小窓から漏れた灯りが路地を照らす。
ここに迷い込む客人を誘っているように……。
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