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夜の闇が辺りを覆い隠す前に、客人が訪れるのは珍しい。
周は小窓から客人の姿を確認すると、二匹の猫に声をかけたあとそっと入口の扉を押した。
ごくまれに、客人ではない誰かがこの店に迷い込んだとしても、周は声を掛けたりしない。
それどころかにっこりとほほ笑みはしても、決してカウンターの奥から出ることはないのだ。
つまり、この客人は来るべくして来た客ということになる。
周が扉を開けたことでびっくりして後ずさってはいたが、「中へ、どうぞ」と言われると客人は戸惑いがちに足を踏み入れた。
本日の客人は、美人というよりもキュートという言葉が似合う可愛らしさを残す女性だ。
周の笑顔は、人をリラックスさせる。笑顔を向けられると男でも女でもほっとしたように強ばった表情を緩めてしまう。
客人もどうやら周の笑顔を見て、少し落ち着いた様子だ。
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