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「ようこそ、お待ちしておりました」
周がそう言うと、ミスティは何度も瞬きを繰り返す。
「忘れたい想い出はお持ちになられていますか」
「……はい」
「本当に忘れてしまっても構わないのですか」
「はい」
周は彼女の答えを聞いてからソファーにかけるように促した。
「シナモン、シュガーおいで」
周の声で私とシナモンはカウンターの上からひょいっと降りる。
「え、猫……、さっきまで置物だったのに」
ミスティは目を見開いて私の方を見た。置物の猫が動くなんて信じられないと言った表情だ。
私はミスティの座るソファの横に座り、彼女に声を掛けた。
『はじめまして、ミスティ』
ミスティは助けを求めるように周を見る。
「いきなり話しかけたら驚かせるから駄目だって言ったはずだよ、シュガー」
周に睨まれて私は体を竦める。
『また怒られてやんの、シュガー』
しっぽで私の背中をぺしっと叩きながらシナモンが笑う。
「本当に猫なの? シュガー」
ミスティは戸惑いながらも不思議な事を受け入れられるタイプのようだ。
背中を撫でようと触れたミスティの手がびっくりしたように引っ込められる。
「冷たい……生きていないみたい」
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