0人が本棚に入れています
本棚に追加
そこには有無を言わせぬ威圧感があった。飛鳥は確かな息苦しさを感じ一歩後ずさる。
「私の存在意義はマスター、教授、茨姫、眠り姫。第七機関の皆様の意に従うことです。それ以外に興味を抱くことなどありえません」
これがこの少年、松風斬の本質である。自己を持たず、命令を遂行することだけに生き甲斐を覚える奴隷。
「なら僕が転校生に興味を持てって言えば?」
「それが教授の願いであり命令であるのならば、私はそれに従います」
斬の本質に揺らぎは一切なく、普段生気のない瞳に強い力が灯る。飛鳥は一つため息をついた。
「そこまでしなくていいよ。それよりも今日の分に備えておいて」
「はい、教授」
斬は形式的な返答とともに一礼。また窓の外へと視線を向けた。
飛鳥はもじゃ髪を掻き毟りながら自分の席に戻る。
「ん」
「……」
「ん」
「…………」
「ん!」
「なんだよ、ティーファ」
背後から、ん、んと聞こえ続けるの無視してもよかったのだが、後々のことを考えるとそうもできない。渋々振り返った先には精巧に作り上げられた人形を思わせる幼女がいた。
漆黒に染め上げられた清涼感を匂わせる髪。機械的な真紅の瞳が制服の水色とコントラストを描いている。
「飛鳥、不機嫌?」
「どうして僕が不機嫌にならなくちゃいけないんだよ」
穏便に返すはずが何故か鋭利な視線を向けている。
「なら、いい」
ティーファは話はもう終わりと言わんばかりに淡と言い切った。
「まったく、自分で話し掛けてきて何なんだよ」
飛鳥はもう一度溜め息をついた。
気持ちを切り替えて次の授業の準備でもしようかと思うも、その必要性がないことに気付く。
何しろ飛鳥は大学レベルの教育は既に習得済みで、ある分野においては世界と対等に渡る力がある。高校課程の内容など今更聞かずともむしろ教師に教えてやりたいと思うほどだ。
教授という肩書きは伊達ではないのだ。
「あれ?」
そこでふと違和感を覚える。
「気持ちを切り替えるって、どうしてそんなこと思ったんだ?」
自分は別に不機嫌になってもいないし、特別な感情の揺れがあったわけでもない。変わらず普段通りだ。
切り替える必要性がない。
結果飛鳥はティーファへの呆れを振り払っただけだどこの論議を終わらせたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!