変人の巣窟

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綺麗な桜色のかみが暖かな陽気を匂わせる。くっきりとした大きな瞳は撮影の際緊張したのか、焦点が合わず視線が泳いでいる。日焼けを知らない純白の肌、端正な顔立ち。女性を客観的にしか見ない斬からしても美少女の名を冠するには相応しいと思った。あくまで思っただけだが。 写真から目を動かすとそこにはしっかりと『第七機関所属 夢見凛音』の文字があった。 「本当の、ようですね…」 「ほら言ったじゃないですか。ちゃんと第七機関の一員だって。辞令だって本日付で配属になってますし、松風さんご存知なかったんですか?」 「はい、そのような話は聞かされていません」 マスターであるナナセからも聞かされていないのだ。斬が知る筈もない。 「まさか、これは偽造工作?わざと抜けていると見せ掛けて油断し第七機関の一員と誤認させて此方を貶めるための罠では…」 「違います違います!!なんで思考の先が基本的に疑念しかないんですか?」 「敵に疑念を抱くのは当然では?貴女は赤の他人にまで自ら全てをさらけ出し相手を全面的に肯定出来るのですか?」 「話が飛躍し過ぎな気もしますけど」 凛音は緊張感が緩んできたのかやれやれと首を捻った。 「それで、結局貴女は何者なのですか?」 「だから本日付で配属になった夢見凛音だって言ってるじゃないですか!?」 これでは堂々巡りだ。斬の第七機関以外への重度とも言える不信感と基本信用は成り立つものと考えている楽観主義者の凛音とが折り重なれば仕方のない事なのかもしれない。 「私は不破ネル(フワネル)さんからの辞令を頂きました。まだ疑うんだったらネルさんに確認してください!!」 初めはオロオロしていたが一向に聞き入れられない状況に意外とストレスを溜め込んでいたらしい。最後の方は吐き出すようになっている。 「確かに確認した方が早そうですね」 まったく悪びれる様子もなく斬は二回耳元に指を当てる。 神経と接続されてくいくのを感じながら目的の人物を探す。 「眠り姫、今は起きていらっしゃいますか?」 「ね、眠り、姫?」 事態が飲み込めない凛音は聞き慣れない単語を復唱している。 『只今お掛けになった電話番号は現在使われておりません。ピーと鳴りましたらお名前とご用件をどうぞ』 明瞭な声が斬の耳に飛び込んでくる。内容はふざけているのだが。
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