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一室が教授の爆音で揺らいだ際、その衝撃は広範囲へと伝わっていた。
「ムギュ!」
ハンモックに寝そべり惰眠を貪っていた少女にもまた例外ではない。空中に打ち出され、一瞬の無重力感を味わうも直ぐ様訪れる力学の法則に、母なる大地へヘッドバット。
「……ん?」
傍らのソファーに座っていた少女、いや幼女は爆発の音でもその衝撃でもなく、少女のヘッドバットに漸く意識を働かせた。
漆黒に染め上げられた髪には清潔感すら匂わせ、こじんまとしたその風貌は幼さを隠しきれないが、何処か機械的な深紅の瞳が精巧に作られた人形のようにも思わせる。
「……ネル?」
大丈夫?とも生きてる?とも続かない必要最低限の問いかけ。幼女にとって返ってくる応えなど分かりきっていたのだ。
「スピー……スピー……スピー……」
地に伏したままの少女から鼻提灯が生み出される。器用にも左右二方向から。規則的な上下運動も乱れることはない。百々のつまりはあれだけの音、衝撃、痛覚であってもこの少女は眠り続けているのだ。
「ん」
少女の無事を確認した幼女の表情に突出した変化はない。無表情が無表情のままで。
しかし、その周囲には優しげな風が吹き抜けていた。
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