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人類がその存在を確認したのは今から約百年前、正確には百二年前のことだった。
世紀の発見と言われるそれも偶然の産物であった。
ある医者の元に一人の患者が運びこれてくる。
全身強打による複雑骨折、内臓破裂、靭帯断裂。
患者はホームから飛び降り自殺を図ったらしい。
素人目に見てもこの患者が助からない事は明白であり、名医であったその医者にとっては尚更だ。
しかし、彼はそこで違和感を感じた。
長年命を扱う仕事をしてきた彼はある程度助かるかどうかが分かるようになっていた。キャリアに固執せず現場で生きてきた彼ならではの嗅覚だ。
過去の膨大な経験が信じがたい事実を彼へと叩きつける。
この患者は助かる、それに一日程度で完治すると。
初め彼は自分の感覚を笑った。あり得ない。そう思わせる証拠は何よりも患者の容態だ。きっと夜勤の疲れだ。自分でも知らぬ間に疲れていたのだと納得させる。
「……ここは、何処ですか?」
柔らかな声が彼に伝わる。その衝撃はハンマーに頭をぶん殴られるかのようだった。搬送中呻き声すら上げられなかった患者が、いまや落ち着いた声を発している。常識を越えた事態に頭の思考が追い付かない。彼の背に冷や汗が流れた。
「あの、すいません。すいません!」
「はっ!はい、何でしょうか!?」
「見知らぬお方にこんなことを聞くのは失礼なのですが、ここは何処なのでしょうか?」
「え、あ、えっと、その、」
医者として生きていくなかで認めなくてはいけないことが多々あった。院内での派閥争い、看護師との意識レベルの差。そのどれもが煩わしく、憂鬱だった。
「大丈夫ですか?何処かお体の具合でも悪いのですか?」
「いやいや!!そんなことないです!」
患者に心配されるなど言語道断。彼は情けなく顔を赤に染めながら、何とか虚勢を張り上げた。
「ふふ、面白い方ですね。慌てたり、急にハキハキされたり」
「ははは、よく言われます。大したことでいちいち慌てるなって同僚からも」
「そういえば、これはストレッチャーというものですか?あれ?なんでこんなものに」
安堵に余裕が現れたのか患者は回りを見渡し自分の状況に気づいたらしい。
「質問の答えがまだでしたね。ここは病院。ホームから飛び降り自殺を図った後ここに搬送されてきたのです。覚えていらっしゃいますか?」
彼から恐れは消えていた。
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