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少年は空を眺めていた。今が授業中であるにも関わらず。実際マナ発見から製品への応用、その先の欲望の産物へのプロセスも頭に完全にインプットされているので聞こうが聞くまいが大した違いはない。
空を見つめる瞳は空を見ているようで見ていない。虚空を眺めているかのように瞳に輝きはない。加えて髪の毛は燃え尽きた線香のような灰。まるで生気を感じさせず、少年を一層別次元の存在へと変える。
「キーリーくん。なに見てるの?」
「教授」
少年が意識を室内に向け直すとそこにはもじゃ髪の少女が嬉しそうに立っていた。
「もう、教授はやめてっていってるのに。僕には春野飛鳥(ハルノアスカ)ってちゃんとした名前があるんだからね」
ぷくーと頬を膨らませる飛鳥はやはり年相応だ。
「すみません。ですが私にとってやはり教授は教授です。」
「まぁ、そう言われるだけの事はしちゃってるしこれからもするつもりだけどさ。少し位名前で呼んでくれたっていいじゃん。僕だって女の子なんだぞ」
「教授、それは命令ですか?」
「…はぁ斬はもう少し女の子の扱い方を知るべきだね」
「申し訳ありません」
これ以上は無駄だと判断した飛鳥は早々に切り上げた。
「じゃあ、お詫びに教えてよ。結局なに見てたの?」
少年は何故か困惑したような素振りを見せ黙り込んでしまう。
そこに変な詮索心が沸き上がってしまうのが飛鳥の教授として、科学者としての性であり、彼女が第七機関にいる原因でもある。
「黙りはダメだよ斬。何を見てたのか教えなさい。これは命令だよ」
「はい、教授。空を見ていました」
「いやそれはわかってるんだけど…」
あまりの返答に転けそうになる飛鳥だが、
「訂正します。正確には空は見ていません」
「ヘ?」
「自分自身何と言っていいか分かりませんが、見ているようで見ていない。そして、見ていないようで見ている。すいません、上手く説明できないです」
「確かによくわかんないや」
学者とは未知の現象に対する明確な解を導き出す職業であるわけだが、飛鳥は心理の方面には余り強くない。自分の心理はわかって欲しいと思う割には。
それに、
「――――深く入り込まれても困るしね……」
「教授?」
「ううん、何でもないよ。そう言えば聞いてる?明日転校生が来るんだって」
「そうなのですか」
あくまで少年の表情に変化はない。困惑の様相はすっかり影を潜めている。
「……斬はやっぱもう少し周りに興味を持った方が…」
「教授」
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