第5章 作家 鴨志田 てら

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それから何も考えたくなくなり就職出来るならどこでもいいや。 そう思って適当に会社を受けることにした。 正直、楽にこしたことはない。 特に読書好きでもなかった僕が唯一受かったのが、ろくに下調べもしていなかった潰れかけの出版社。 「編集者」響きも悪くない。 遣り甲斐だってあるはずだ。 いずれ大作家を発掘して世に売ってやる! ……そう思ったこともあった。 しかし、現実は厳しい。 潰れかけの会社など誰からも全く相手にされない。 唯一、社長が祥平さんと幼馴染みというよしみで鴨志田家だけがたまに取引をしてくれた。 大切な顧客である鴨志田家を心のどこかで面倒臭いと思っていた。 今日もきっと「鴨志田てら」の作品だけをもらえればいいと思っていた。 僕の仕事は鴨志田てらの作品を我が社に持ち帰ること。 後の連中は付随だと・・・。 しかし、それは大間違いだった。 編集者の仕事とは作家と二人三脚でなければいけない。 菊さんも鴨志田てらの娘として生まれれたばかりに辛い人生を誰にも打ち明けられず苦しんでいた。 もしかすると祥平さんや亮さんも「天才作家」の存在のせいで同じ葛藤を抱いていたのかもしれない。 なら、これから僕の努力次第では皆を覚醒させることだって出来るかもしれない。 いや!させてみせる! 時間がかかってもいい! 僕はもう逃げない! 絶対!!!! 今から「編集者 皆瀬真人」の第一歩としてスタートをきるんだ。 よし! ブッ! 気合いのあまりオナラが出た。 僕は威風堂々、トイレを後にした。
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