白紙の契約

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「契約を……白紙にして下さい」 「それは……沙織の方を信じるって事か?」 「違う!!」 「違わないだろう!」 グッと手首を掴まれ引き寄せられた。 課長の胸に納まった私の身体。 振りほどかなきゃ。 でも振りほどけない。 私はこの温もりを知ってしまったから。 「お前は俺を何だと思ってるんだ?」 私の好きな人!! そう叫びたい。 「上司で……今は……。恋人契約を交わした……偽りの恋人です」 本当の事を言っているのにこんなにも苦しいものなのだろうか。 課長は私を抱きしめたまま何も言わない。 正直、課長が私を引き止めるような行動をするとは思っていなかった。 だからほんのちょっとだけ期待してる自分がいる。 「泣くな」 課長の指が私の目頭を拭った。 気が付かないうちに私は泣いていたようだ。
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