優しい誘惑-1

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「何だ?話って」 改めて課長が私と向き合う。 二人っきりで話をするのはあの日以来だ。 緊張が駆け巡った。 「あの……さっき沙織さんがいらして……」 「沙織が?」 あれ?課長は知らなかったのかな? 「ロビーの図面なんですが、書き直せと……」 「はぁ?なんだって!」 課長は声を上げた。 「あれはもうGOサインが出て始まってるはずだろう」 「私もそう言ったんですが……。社長に直接話すからいいと」 課長は黙っていたが、 「分かった。この件は俺がなんとかする」 頼もしい言葉を聞いてホッとする。 「すいません。お願いします」 「それで……か」 課長が何かを呟いた。 「それで泣いて会議にギリギリ来たんだろ?」 私は驚いた。 泣いていた事も課長にはバレバレだった事に。 「お前が仕事場で泣くなんて余程の事だろう。他に何を言われた?」 課長の目は優しくて思わず抱きつきたい衝動に駆られた。 「松本?」 優しい声で呼ばれてまた涙がでそうになった。 「部下の前で……下っ端の私に話しても埒が明かないと……」 ダメだ。泣いちゃダメだ。 私は唇を噛んでグッと堪えた。
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