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~貴史~
まさか山下が松本に惚れてるなんて予想外だった。
それに俺の気持ちも見透かされている。
昔からそうだった。
山下は人の心が読めるのか?って思う事がよくあった。
多分客観的に人を見てるんだと思うが。
手強い相手だな。
俺はため息をついた。
俺はチラリと時計を見る。
沙織との約束まであと一時間。
そろそろ行く準備でもするか。
「あれ?課長もう帰られるんですか?」
松本がオフィスに戻ってきた。
「お前はまだ帰らないのか?」
「今日色々あって仕事溜まってるんです」
松本は申し訳なさそうに言った。
「お前も疲れてるだろ。早めに帰れよ」
俺はあいつの頭をポンポンと叩くとオフィスを出ようとした。
「課長!」
ドアに手をかけた時、松本に呼び止められ、振り返り松本を見る。
「今日は本当にご迷惑をおかけしてすいませんでした」
俺に頭を下げる松本。
俺の手が自然と松本の頬に触れる。
一瞬ビクッと体を震わせてたがまっすぐ俺を見上げた。
「何事もなくてホントに良かったよ」
自然と出た言葉。
松本の目から涙が零れ落ちそうになっているのを、俺は指で掬ってやった。
「どうした?」
「あれ?何で涙なんて……」
焦った顔もいとおしい。
「安心したんだろ?」
泣いてもいい。
俺の前だけったったら。
いくらでもお前の涙を掬ってやる。
だからもう少し待っててくれ。
必ず終わらせるから。
「じゃ、帰る。ほどほどにな」
名残惜しい気持ちを押さえつけ俺は沙織と話をつけるため、松本を残し俺はオフィスを出て行った。
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