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「貴史と別れてイタリアに渡って私は無我夢中で仕事をしていたわ。言葉も文化も違う場所でそれでも私は有名に成る為に頑張った。だけど認めてもらえない。私の様な人間はたくさんいるから……。
私はその内のただ一人。そうなればクライアントだって言葉の解る人を使いたくなるわけよ」
沙織はカクテルに手を伸ばし少しそれを飲んで息をつく。
「だんだん仕事もなくなって何度も日本に帰ろうとした。いつも思い出してたわ。あなたの事を」
俺を見つめ寂しそうな顔をする沙織。
「貴史に会いたい。何度もそう思った。
でも自分から仕事を理由に別れを切り出したのに、結果も出してない。そんな惨めな私を見てほしくなくて意地でもイタリアにしがみついていた。
そんな時に出会ったのよ。木島弘樹と……」
誰もが黙って沙織の話に耳を傾けていた。
「彼は道端で絵を描いてそれを売っていた。彼の絵を見たときなんだか懐かしくって、温かい気持ちになって……。
私は吸い寄せられるように彼の絵を手に取った。彼は日本人だったからストレスなく話が出来る。私達は自然に仲良くなっていったわ。男と女の関係になるのも時間はかからなかった。
彼と私は一緒に暮らすようになった。それから私の仕事も順調になって少しは名前が売れるようになったの。恋も仕事も順調で生活も安定してた。でも……」
沙織の表情が曇った。
きっとこれから話す事は沙織にとって辛い事なんだろう。
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