それぞれの道-2

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シートに深く座りため息をつく。 なんだか宝探しみたいな恋だったな。 色んな難関を乗り越えて芽生えた気持ち。 課長という宝箱を探すために私は沢山の冒険をした。 けど……結局その宝箱は空っぽだったという結末。 はぁ……。 私はもう一度ため息をついた。 「お強いんですね」 碓氷さんがバックミラー越しに私に話しかけてきた。 強い?私が? 「泣かれるかと思ってました」 泣く……? そういえば千恵にも同じ事を言われた気がする。 課長が私の告白を聞いてくれなかった日。私はその日以来泣いていない。 悲しいのに涙が出ない。 人は悲しすぎると涙が出ないものなのか? 「強くなんてないです」 私はそう答えた。 「そうですか」 碓氷さんがクスッと笑ったような気がしたが見ない振りをして流れる景色を眺めていた。 しばらくして車が止まった。 「到着しました」 碓氷さんが私にそう告げた。 「ありがとうございました。課長にもお礼を言っておいて下さい」 私が車を降りようとした時、先に降りた碓氷さんがドアを開けてくれた。 そして私は車から降りる。 「松本さん」 碓氷さんに声をかけられ顔を上げる。 「貴史様の事、信じてあげて下さいね」 信じる?一体どうゆう事だろう。 「あのっ……」 「それでは、おやすみなさいませ」 そう言って碓氷さんは車に乗り込み、私に軽く頭を下げるとゆっくりと車を走らせた。 私はその車が見えなくなるまで見送った。
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