それぞれの道-2

18/19
607人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「松本、もう行け」 その言葉がまるで合図の様に碓氷さんが後部座席のドアを開けた。 そしてその言葉は私にとっても最後を告げている。 嫌だ……。 会えなくなるなんて……。 離れたくない。 けど……。 そんな言葉を口にする事なんて出来なかった。 「お前が頑張れば俺も頑張れる。だがこれだけは約束してくれ。決して無茶はするな」 課長は真剣な顔で言った。 「お前は今のままでいい。無理して変わろうとするな。ずっとそのままのお前でいてくれ」 「はい……」 私は小さく返事をすることしか出来なかった。 私は課長に肩を抱かれながら車に乗り込む。 バタンと閉まるドア。 もう私達の間に壁が出来てしまった。 碓氷さんが気を利かせてくれたのか、窓を開けてくれて課長がそこから覗き込む。 「松本、元気でな」 「課長もお元気で」 一番言いたくなかった言葉を言わなくてはならない。 言いたくない。言いたくない……。 「課長……。さようなら」 「ああ……。さよならだ」 車の窓が閉まり、私と課長は完全に別空間に。 そしてゆっくりと車が動き出した。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!