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「松本、もう行け」
その言葉がまるで合図の様に碓氷さんが後部座席のドアを開けた。
そしてその言葉は私にとっても最後を告げている。
嫌だ……。
会えなくなるなんて……。
離れたくない。
けど……。
そんな言葉を口にする事なんて出来なかった。
「お前が頑張れば俺も頑張れる。だがこれだけは約束してくれ。決して無茶はするな」
課長は真剣な顔で言った。
「お前は今のままでいい。無理して変わろうとするな。ずっとそのままのお前でいてくれ」
「はい……」
私は小さく返事をすることしか出来なかった。
私は課長に肩を抱かれながら車に乗り込む。
バタンと閉まるドア。
もう私達の間に壁が出来てしまった。
碓氷さんが気を利かせてくれたのか、窓を開けてくれて課長がそこから覗き込む。
「松本、元気でな」
「課長もお元気で」
一番言いたくなかった言葉を言わなくてはならない。
言いたくない。言いたくない……。
「課長……。さようなら」
「ああ……。さよならだ」
車の窓が閉まり、私と課長は完全に別空間に。
そしてゆっくりと車が動き出した。
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