回想5(ナオ)

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回想5(ナオ)

私は『ナオ』から目が離せなかった。 彼は落ちる花びらに手を伸ばし、 まるで猫の様にじゃれている。 掌の中へ素直に納まらない花ビラに 「くそっ!」と悔しそうに言い、 爛々とした目で次の花びらを狙っていた。 (何やってんの…この人…) 「ナオ!」 その声に振り向きもせず 彼は花びらにまだ手を伸ばしている。 呼んだのは來田だった。 彼は花びらに視線を向けたまま 「あ~?」と返事した。 「来たなら声かけろよお前」 來田は呆れたように言う 「先輩俺の親友の橘って言います。少し…」 横目で『ナオ』を見ながら続けた。 「変わった奴で…」 先輩は『ナオ』をチラッと見て 「まるで猫だね」 とそのままの感想を口にする。 美羽と実里は信じられないというように 來田ににじり寄り 「來田の親友が橘なの?!!!」 二人の迫力に顔を引きつらせ答えた 「そ、そうだけど?」 美羽と実里は顔を見合わせ 「「あの橘と?」」 來田は不審な表情で聞き返す 「あの?って何」 それに負けずと美羽が眉間に皺を寄せて言った。 「浮気者」 來田はそれを聞いて拍子抜けした顔をし、 プッ!と吹出しクッ…!と 声を殺して笑っている。 渡辺がそれに異議を唱える様に 「ナオは浮気者じゃなくて…  自分本位っていうか…」 実里は納得できないというように言う。 「何それ」 今度は宥めるように実里に言った。 「あいつモテるけど興味ないんだよ」 ありえないと言うように美羽が聞く。 「何それ」 來田が渡辺に同意するように頷く 「だな」 美羽と実里はまだ花びらを掴もうと 意地になってる『ナオ』を見る。 でも私は別の事を考えていた。 『ナオ』は來田と似ている気がする 周りの人に壁を作るような… 雰囲気を感じていた… 彼と一緒に居たあの女の子は もう教室へ来ない。 理由はわからないけど… 「相手にされてなかったよね、かわいそう」 美羽は少し怒ったように…言っていた。 「ナオ!いいからこっち来いって!」 來田の怒鳴り声に ハッとして『ナオ』を見た。 彼は名残惜しそうに桜を見上げ、 面倒くさそうに言った。 「はいはい」 「お前が来たいって言ってたじゃん」 「そうだっけ?」 「ナオ…」 來田君は溜息を吐いていた。
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