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何気ない日々。何気ない生活。何気ない友達。何気ない時間。
そんな毎日を、ただなんとなく過ごしていた。
―――あの人に出会うまでは。
友達だってそこまで仲良くしようと思ったことはない。ただそばにいる人と話しているだけだ。好きな人だってできたことはなかった。私は他人というものに心底興味がなかったのかもしれない。
けれど、変われたんだ。人の気持ちを考えることができたんだ。本気で人を愛そうと思える日が来たんだ。
私はこの気持ちを大切にしたいと思う。
4月。進級と同時に転校生が私のクラスに入ってきた。
「黒川小豆さんといいます。向こうの学校からは、いろいろあって転校してきたんです。皆さん、仲良くしてあげてくださいね。」
教師が転校生の説明をした。教師がニコニコと話をしている反面、その転校生はずっと何かに怯えるように俯いている。
なんだろう、この学校に不満でもあるのかな?
「じゃあ黒川さん、簡単に自己紹介をお願い。」
「・・・・・・・。」
「黒川さん・・・?」
「・・・ろしく、願いしま・・・。」
あまりに小さい声で聞き取りにくかった。多分、「よろしくお願いします。」といったと思うけれど。
その姿に教師は一瞬困った表情を見せたが、すぐに立ち直って転校生に席を案内した。
その転校生は私の左隣の席となった。
チャイムと同時に転校生が隣の席へ歩いていく。
転校生を間近で見てみると、想像以上に可愛い。
長すぎる黒髪、真っ白な肌、小さな顔、大きな瞳、華奢な体・・・。
その、見るもの全てが美しく思えた。
他人に興味がなかった私が、少し転校生に興味を持った瞬間だった。
彼女が席に着く。そしてまた俯く。長い前髪で顔が見えなくなってしまった。
「えと・・・黒川さん、だっけ?よろしく。私は岡崎澪。」
・・・自分で驚いた。気づかぬ間に自己紹介をして話しかけていた。
黒川さんは僅かに頭をあげて、チラリとこちらを見る。そして
「・・・・よろしくお願いします。」
と言ってまた俯いた。隣だったからか、さっきより声はよく聞こえた。
「うん、よろしく。どこから来たの?」
「・・・東京。」
黒川さんは俯いたままそう呟いた。
「すごいじゃん!なんでこんな田舎に?」
「・・・・お、親の転勤で・・・そのまま・・・。」
「ふぅん、そうなんだ。」
「・・・・。」
「・・・・。」
話が途絶えたのと同時に、授業が始まった。
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