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センセイと約束した訳ではない。センセイはまた来ますとだけ言って部屋を出ていった。だから今夜も来る確証は何処にも無いのだ。 でも私は怖かった、無性に怖かった。もし今夜センセイが来て私が留守だったらどうするのだろう。 アテの外れたセンセイは今夜の女を探すんじゃないか……例えば同期。彼女を呼び出して洒落たバーに誘って口説き落とす、そして抱き合う……そう直感した。 そうしたらもうセンセイは来ない。同期がいいに決まってる。そんな小さな妄想に私は怯え、体が震えた。 そして何より、私はあの快楽が欲しかったのだ。車が視界に飛び込んだ瞬間から始まる甘い快楽。激しいのに甘い口づけ、細く骨っぽいのに柔らかな愛撫、それでいながら激しい行為。そう思い出すだけで熱くなる。私はもう餌付けされた犬なのだ、パブロフ。今夜も来てくれるならセンセイに抱かれたい。
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