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「どうもならないよ。そのまま卒業して、私は看護学校の寮に入ったし。風の噂によると、その二人は数ヵ月後に別れたみたいだけどね」
「そっか・・・辛い時期があったんだな。なんか、俺分かるよ。その頃の綾子の気持ち」
翔太は煙を静かに吐くと一息つき、悲しそうに微笑んだ。
「まぁ、昔話なんだけどさ。それから何かトラウマになって、本気で恋するのが恐くなっちゃって。その後も何人かと付き合ったけど、別れが苦しいと思った事なんてなかった。いつも何処かで一線引いてたんだよね」
車窓から見える、星のない夜空を見上げ深いため息をついた。
「綾子の彼って、よっぽどいい男なんだな」
少しの沈黙の後、窓の外にゆっくり流れる煙草の煙を眺め翔太はぽつりと言った。
ぼやけた月明かりから翔太に視線を移し、私は首を傾げる。
「どうして?」
「どうしてって、何年間も捕われてた綾子をトラウマから解放してくれたんだろ?それってよっぽど魅力のある人だろ」
翔太は煙草の火を消しながら白く登る最後の息を吐き、私を見ながらいつもの柔らかな笑みを見せた。
「いい男かどうかは分かんないけど、初めて会ったタイプ。いつも気持ちの探り合いみたいな。一緒に居ても安らぎと不安とが、いつも共存してる感じ」
「そんな、安らぎだけ与えてくれる男なんていないぞ?そんな奴いても綾子が満足する訳がない。常に駆け引きができる男!恋愛の達人みたいでかっこいいじゃん」
苦笑いを浮かべる私を茶化す様にニヤケ顔を見せる。
「達人?ただ自分勝手なだけだよ」
「だだの自分勝手な男に、綾子をそこまで本気にはさせられないだろ」
「翔太って変わってるね。普通はこの状況からしたら、彼を悪く言うのが普通でしょ?」
「まぁ、してる事はずるいよな。でも、羨ましくもある。そこまでして想って貰えるような魅力があるんだから。ほら、俺は愛想尽かされ女に逃げられた男だからさ」
翔太は体をシートに滑らせると両手を挙げて大きな背伸びをした。
触れてはいけないかと思い、前回も聞けなかった言葉が頭を過った。
「翔太…別れた理由って何なの?」
私は翔太の横顔を見つめ、反応を窺う様にゆっくりと言葉を放った。
すると翔太は伸ばしていた両手を頭の後ろで組み振り向く。
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