消えゆく気配

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「え?俺?・・・俺の事は今日はいいよ。もう終わった事だし。二人で陰気くさくなったって仕方ないだろ?・・・また今度話す」 「うん・・・。いや、無理に話さなくていいよ。嫌な事聞いちゃってごめん・・・」 ・・・やっぱり聞かれたくなかった事なんだ。 翔太の微笑みに言葉がつまる。 「とにかくさ、綾子はゆっくり考えた方がいいよ。今の状況で自分から動き出せないなら相手の反応を待つしかない。彼女の存在が出てきたなら、今までとは変わって来るだろうし。まずは、週末を頑張って乗りきるか!」 翔太は腕を曲げガッツポーズをとるとニッコリと笑った。 「・・・頑張って乗りきるかって乗りきるの私だし」 「だからさ、俺も付き合うって。毎晩朝まで飲むか?」 「ははは!いいねぇ~。私が酔いつぶれたらちゃんと世話してね。翔太って本当に面倒見がいいよね」 私って、友達には恵まれてるな・・・。 友達に恵まれてるって、凄い幸せな事だよな・・・。  再び車を走らせ住宅街を抜けると、広い敷地に聳え立つ病院と寮の灯りが見えてきた。 「昔のトラウマから抜けられても、また大きなトラウマになるかもな・・・。やっとこんなに想えた人なのに繰り返して・・・馬鹿だね私・・・」 暗闇に包まれた病院。建物から溢れる小さな灯りを眺め呟いた。 「その頃の綾子と今の綾子とは違う。大丈夫だ。恋愛に関してだけじゃなく、人間なんて過ちを繰り返しながら生きてるんだから」  翔太は顔を正面に向けたまま微笑むと、車の通りが殆んど無くなった静かな交差点で右にウインカーを出した。 私は彼の横顔を見つめ小さく微笑み返した。 「翔太・・・あんたって前よりいい男になったね。私のタイプじゃないけど」  「綾子・・・おまえは前から一言余分な女だな」 二人は目を見合わせると思わず吹き出し、車内は二人の笑い声で満たされていた。
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