消えゆく気配

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「綾子・・・この前言ってた釣った魚に時々しか餌をやらない彼氏とは上手くいってんのか?」 FMラジオから流れる初めて聞く洋楽と、CDケースが擦れる音の中で翔太が突然ポツリと言った。 私はその言葉で一瞬手の動きを止めた。 「うん、上手くいってるけどもうすぐ上手くいかなくなる予感」  「は?・・・どう言う意味だ?」 フロントガラスから視線を私に移すと首を傾げた。 「明後日から4日間彼女が帰ってくるんだよね。半年後には完全にこっち戻ってくるんだってさ。ついに私は要らなくなる訳だよ。釣られた魚は強制的に放流~」  私は翔太の視線を笑い飛ばし、再びCDを探る手を動かした。 「綾子・・・放流とか言ってる場合じゃないだろ?」 「言ってる場合だよ。だって、いつかはその日が来ること分かってたんだもん。予定より早まって動揺しちゃってるけどさ。自分から離れる勇気がないの私。いっそ、捨てられないと終わらせられないんだ・・・」 翔太の視線を横顔に感じながら、手元を見つめ息を落とした。 「綾子・・・」  翔太は掛ける言葉を選んでいるのか、信号待ちの車内に重い空気が流れる。 「翔太、加藤ミリヤ聴くの?あとaikoとか・・・あっ、もしかしてこれが彼女の忘れ物?これもそうでしょ!」 私はその空気を取り払うように、若い女の子達に人気がある、女性シンガーのCDを数枚引っ張り出しニヤリと笑った。 「うん、元カノの。それもだ。・・・って言っても、俺が全部彼女に買ったやつだけど」 「そうなの?あんた、貢いでたんだねぇ~。でも、買ってあげた物を残されるのもこれまた虚しいね」 「おまえさー、はっきり言い過ぎだって。人に言われると余計虚しくなるわ!」 「おまけに、それを捨てられないのが翔太らしいよね」 「うん。悔しいから俺が聴いてる」 声を上げて笑う私を見て、翔太は指で鼻を擦り含み笑いをしていた。 「一緒に聴いた歌って何年経っても忘れられないよね。曲を聴くと、その頃の感情も情景も思い出す。つらい時期に聴いた曲は特にそう・・・」 手にしたCDを見つめフッと小さな笑みを浮かべる。
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