『旅館の一室にて』

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「さて、そろそろお風呂に行きましょう」  おっとりした口調で、母はそう提案した。 「そうだね、行こうか兄貴」 「……おう」  今僕は、母と兄貴と三人で、とある旅館に宿泊している。  季節は冬で、部屋の大きな窓から見える山々は、その一面が真っ白に染まっていた。 「雪凄いなー。地元じゃこんなに積もらないよね」 「そうねぇ~、ちょっと山の先が白くなってたり、山道が雨水で凍結するくらいだものね」  僕と母は野次馬のように、珍しい物を見る目で景色を眺めていた。 「……おい、行くぞ」  そんな最中、兄貴の呼びかけに我に返った。 「あぁ、ゴメンゴメン……ッ?!」  振り返り、目にした兄貴の姿に、僕は思わず吹き出した。 「……どうした?」  どうしたもこうしたも、既に服を脱いでいる兄貴の体に、男では有り得ない日焼け跡があったのだ。 「い、いや……あの……何でもない」  突っ込んだら負けな気がする。  そう思った僕は、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている、『スク水の日焼け跡』を体に刻んだ兄貴から背を向けた。  というか、何でもう脱いでるんだ……。  色々と疑問が浮かぶ思考を、頭を振り乱すことで一度リセットし、お風呂へ向かう準備を、僕は始めたのだった。
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