第12話

３７

今日のことは計算ずくだったに違いない。ケーキをネタに自宅に呼び、泊まらせる。そして旅行の話を振るつもりでいた。大人の男はさりげない駆け引きが上手だ。悪く言えばずる賢い。

「……嫌か？」

反応の薄い私を見て不安になったのか部長は私の顔を覗き見る。

「あまりにも駆け引きが上手だから」
「ははは、小川にはお見通しか。この歳になると失敗しないよう画策を練るものだ。先見の明か」

部長は、純和風の旅館とホテルはどちらがいいんだ、と私に尋ねる。私はどちらでもいい、部長のお勧めの宿があればそこで、と言った。部長は冬だから温泉のあるところにしようとパンフレットに丸を付けた。