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子供の寝顔って 何でこんなに癒されるのだろう……… 布団の中でスヤスヤと眠る、桃華の顔を見つめる。 この一時だけは、たとえ明日に不安があっても、仕事で嫌な事があっても、全てを忘れて幸せな気持ちになれる。 (……この町に帰って来て良かった) しみじみと思う。 辰也に会社の役員を紹介されて、私は近所にある印刷会社で働き出した。 印刷会社と言っても製本まで手掛ける大きな会社で、パートまで含めると従業員は七百人以上。この町の中では、町内の隣組の中に、必ず一人は関係者が居ると言う工場だ。 昔からある、地域に密着した工場で、中には子会社のみならず、個人で請け負いの仕事をしている人間も存在する。 請けとは、歩合制で断裁や印刷物を折る作業をするのだが、会社組織の中で同じ作業をする部署が有りながら、請けで働く人も存在すると言うのは、印刷会社特有のシステムらしい。 働きだして一ヶ月…… 今はまだ見習いだけど、私は請けで折りの作業をする事になった。 歩合制の給料の中から、場所代と機械のリース代を差し引かれるのだが、慣れれば女の私でも手取りで三十万くらいは稼げそうな感じ…… 楽な仕事とは言い切れないけど、身体を動かす仕事は嫌いじゃないし、取り敢えず生活のメドが立ち、ほっと一安心な状況だった。 「はぁーー」 安心感から生まれた、切なさ…… 未来への不安。 私は大きくため息をつくと、近所のコンビニへと出掛ける事にした。
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