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まだ夕方前ではあったが『cafe BILLY』のカウンター席では、一人の男がほろ酔い気分でビールを飲んでいた。 男は光沢のあるライトグレーのスーツ姿でスキンヘッド。 身長が百八十センチの辰也よりも、更に長身で筋骨隆々な為に、どう見ても危ない職業の男に見えるのだが、近所の松福寺の僧侶で、松福幼稚園の園長の隆円であった。 店内には他に客の姿は無く、店主の辰也も旨そうにビールを飲んでいる。 「隆円、日曜のこの時間に、こんな所で酔っぱらってて良いのか? で、その格好は何だ?」 「───」 「ったく……だらしないな」 無言で、苦虫を噛み潰したような表情の隆円に、辰也が苦笑した。 「飲み屋の姉ちゃん、デートに誘って、昼飯食い逃げされたか? お前、昔から女にはダメダメだな…… 何度目だ?」 「今度は脈ありだと思ったんだけどな……」 ため息をつきながら、隆円が重い口を開いた。 「辰兄は良いよな…… ガキの頃からモテまくりで、女に不自由した事ないだろ?」 「無いよ」 煙草に火を点けながら、あっさりと辰也が答えた。 今年で二十七歳になる隆円であったが、ガキ大将であった二歳年上の辰也を、子供の頃からの習慣で未だに『辰兄(ニイ)』と呼んでいる。
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