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「桃。これ見て!」 辰也が桃華の目の前に生卵を差し出した。 卵は生き物のように辰也の指を滑らかに移動して、消えたかと思うと、次の瞬間、手のひらに現れる…… 手品師のような手捌きで、桃華に卵をアピールした辰也は、卵を割ると片手で卵白と卵黄を取り分けて、卵黄をシェーカーに落とした。 『カシャ…カシャカシャ………』 華麗とも言える、流れるようなフォームでシェーカーを振る。 辰也を見つめる桃華の瞳がキラキラと輝いた。 好奇心旺盛な子供らしい瞳である。 その瞳に満足した辰也はニヤリと笑うと、最後に頭上にシェーカーを放り投げ後ろ手にキャッチした。 「辰也カッコいいー」 美加が歓声を上げる中、辰也がトレーに ほんのりと黄色い、乳白色の液体の入ったグラスを乗せて桃華の隣に現れた。 グラスから、微かにバニラの香りが広がった。 「お嬢様。 先程はお口に合わぬ物を召し上がらせてしまい、大変失礼致しました。 お口直しになると良いのですが どうぞこちらをお召し上がり下さい」 恭しく言ってお辞儀をすると、桃華の前に丁重にグラスを置いた。 急変した辰也の態度に、桃華は困ったように美加を見ると、美加は微笑みながら頷いてる。 桃華は緊張した様子で背筋を伸ばすと、おそるおそるストローを口にした。
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