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「まあ、そんなわけだからヨロシクね!
ところで辰也。私達は引っ越しの途中で腹ペコなんだ。……食わしてくれ」
「何、食う?」
「えっ!?メニュー増えたのか?」
美加が意外な顔をした。
「親父さんの頃は、昔ながらの激旨ナポリタンとトーストしか無かったぞ。代替わりして営業方針変わったの?」
「基本スタイルは同じだ。俺も親父同様、まめに働く気は無い」
北に富士山を望み、店から南へ十数分歩けば、駿河湾のあるこの町は、市街地から少し離れたベッドタウンである。
団地も二十棟近くあり、近辺には二十四時間稼働で、交代制のシフトを取る工場がいくつかある為、夜勤者の昼間の暇潰しとしてパチンコ屋などは朝から賑わっている。
酒好きな者も多く、工場の近くにある酒屋に入ると、大抵は酒を飲むスペースが設けられており、若干の割り増し料金を払えば、そこで酒を飲める仕組みになっていた。
『cafe BILLY』はそんな町風と店主の人柄によって成り立つ店。
一見、お洒落とも言える店構えであるが、昼間は普通に喫茶店。
夜の営業に至っては、ツマミ等は殆ど無いが、ツマミが無い分、酒と会話を楽しみたい者にとっては、居酒屋よりもリーズナブルな値段のショットバー的な店だった。
辰也の父親が、トーストとナポリタンしか出さなかったのは、余計な仕入れを省き、客の回転率を上げて、その分価格を下げると言う大前提があったのだが『作るのが面倒くさい!』と言うのが正直な理由だった。
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