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人の視線に晒される事には 慣れている。 しかし……ここは小学校。 完全なるアウェイ 覚悟はして来た……筈。 だが…… (…………まいったな……) 教室に足を踏み入れた瞬間、周囲の視線を集めた長瀬辰也は、内心ではそう思いながらも、銀縁の伊達眼鏡を中指で押し上げて周囲に会釈した。 身長は百八十センチ。 仕立ての細身のスーツをスタイリッシュに着こなしている。 辰也は洗練された軽やかな動きで、保護者達の間をすり抜けると、窓際の一番後ろへと移動した。 授業の開始前だった為に、保護者のみならず、児童の大半が辰也の姿を目で追った。 誰もが、思わず見てしまう男…… 一言で言えば、長瀬辰也は完璧とも言えるビジュアル系。 つまり、カッコいい男なのだ。 髪型はやや長めの髪を、綺麗に櫛の入ったオールバックにしているが、これはスーツに合わせたヘアスタイル。 しかし、最近では珍しいヘアスタイルと、辰也の整った顔立ちが、モノクロ映画の二枚目スターを彷彿させた。 「ねえ…誰?誰?……」 辰也は、教室のあちこちから囁かれるざわめきを、再び銀縁眼鏡に中指を当てて、クールな表情で受け流した。 六年生のみの授業参観だった。 卒業を目前に、子供達の成長を見てもらおうと言う趣旨の、この小学校のお祭り的な行事であり、参観者は父母から祖父母まで、さまざまな世代の人々で溢れていた。 大人達の何人かは、辰也と顔見知りであったが、それもごく僅か。 児童の父親であるなら、六年間の間に一度くらいは面識が在るべき筈である。
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