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……昨夜の事である。
「辰也。明日忙しい?」
「忙しい!無理!」
含みのある美加の物言いに辰也は速答した。
「何よ。
まだ何も言ってないのに……」
「どうせ、ろくな頼みじゃ無いだろ」
ほぼ、スッピンに近い顔で口を尖らせる美加に、辰也はさらりと答えた。
自宅から歩いて十五分程の、印刷会社に勤める美加は仕事帰りだった。
会社で作業着に着替える為に、ジーンズにパーカー姿のラフな服装である。
美加はカウンター席でビールを飲み干すと、空になったジョッキを辰也に差し出しながら、カウンターの向こう側。
つまり、辰也の隣で、漫画本を見ていた桃華に声を掛けた。
「桃華ぁー 辰也忙しいんだって……
でもさ…桃華が頼めば、絶対に断らないと思うなぁー」
そう言ってニヤリと笑った。
「……なんだ、桃の頼みか
………言ってみろ」
美加にビールを注いだジョッキを手渡すと、辰也は桃華の顔を覗き込みながら桃華に話し掛けた。
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