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「スーツか……昔はホストやってたから持ってるけど、ネクタイの締め方覚えてるかな」 「辰ちゃんはカッコいいんだから、ビシッとキメて来てよ!」 困ったように言う辰也に、桃華が瞳をキラキラさせながら言った。 子供の頃の美加にそっくりな桃華の笑顔に、辰也は目を細めながらも苦笑して応えた……… そんな成り行きで辰也は、明らかに場違いなこの教室に居る訳なのだが、居心地の悪さよりも、感動と喜びの方が絶対的に勝っていた。  桃華が普通に笑っている。  隣の席の子供と会話もしている。 それだけで辰也を感動させるには充分だった。 だがその一方で、辰也には複雑な思いもあった。 物心ついた頃から美少年と、もてはやされて来た辰也にとって、自分自身の見た目の格好良さは当たり前の事ではあったが、それに固執する程、ナルシストでは無かった。 格好良いとか悪いとか…… 大人の男にとって、見た目の格好良さはたいして重要な事では無いのだ。
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