悪意と善意

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そんな時、ポタンポタンと冷たい雫が、自転車を押す手の甲に落ちて来た。 はぁー。 雨だよ…。 自転車に乗って帰ってたら、濡れずに済んだのに…。 上手くいかない日の仕上げは、トコトン残念な感じ。 笑えてきちゃった。 段々と強くなる雨の中、急ぐ事もせず、1人変わらず歩く。 このまま、風邪でもひいてしまおうか。 ふと、横に気配を感じて視線を上げると、黒い壁? 私と同じ様に、少し雨に濡れた巨人。 まだ濡れきっていない長い前髪に落ちた雨が、そのままくっ付いている。 「雨女。」 低い小さな声。 ふふふっと笑ってしまう。 笑いながら、私が 「雨男。」 と呟き返すと、ふっと、笑った様な空気が零れて来た。 少し重くなった服。 でも、何故か気持ちは柔らかくなっていた。
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