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2人で、会話もなく歩く。
こんな気持ちの日に、側にいるだけで気持ちを柔らかくしてくれる。
その存在に、ほわっと温かくなったように感じた。
私の家に着くと、壱くんは、帰ろうとした。
そうだよね、濡れたから早く帰って着替えたいよね…。
送ってくれてありがとう…って伝えようとしたら、玄関の扉が動いた。
「あっ、壱くーん!!何?!瑠衣も一緒にビショビショじゃない!!ほら、帰ろうとしない!上がって。夕飯食べて行きなさい。」
2人の静かな時間をぶった斬るような母の騒がしさ。
本当に、煩い…。
…でも、このまま、あの古くて暗い家に、壱くん独りを帰すのは、忍びなかった。
断らないで?
この状況じゃ、一緒には付いて行けないから。
「お風呂の沸かしてくるわね~。」
バタバタと家に入った母。
あ…、壱くん帰っちゃう…?
「あはは…騒がしいけど、上がってって。このまま、壱くんが帰っちゃうと、お母さんに怒られちゃうから。ごめんね。夕飯も一緒に食べようよ。」
ちょっと上目遣いに、少しだけ覗いた綺麗な眼を見詰める。
胃袋を刺激してみたりしながら。
まだ、一緒に居たいんだよ…。
そう言えばいいのにね。
意地っ張りな私。
「おにぎり?」
「うん、作るからっ!!」
また、壱くんには笑顔にしてもらった。
少ない言葉の中にある、彼の単純さや、遠慮や、心配なんかが優しく私を包む気がする。
ちょっとだけ…自惚れさせてね?
勘違いって…知ってるから。
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