見えない壁

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学校のある朝。 いつもなら余裕を持って起床する私が、起きられなかった。 昨夜、遅くまでカーテンを直していたから。 遅刻する程ではないけど、のんびりもしていられない時間。 ゴキゴキとなる首と肩。 食パンをかじると、階段から比較的重めの足音。 最後はドスッと音がして、床の悲鳴も聞こえた気がした。 「…お。」 またもや、一文字。 これで、『おはよ。俺にも卵焼いて?』だと分かるなら、凄いよね? 「へーへー、チョット待ってな。」 パンをかじりながら、コンロにフライパンを載せる。 「ハム?ベーコン?ソーセージ?」 あえて、言葉にしないと分かりにくい質問をしてやる。 なのに、伊織は、自分で冷蔵庫からチーズを出してカウンターに置いた。 チーズオムレツってか? パンを焼き始めるその後ろ姿に、溜息をついて、卵を混ぜる。 料理は苦手なのに、舌は敏感な 伊織。 意外と面倒。 でも、そのおかげで、最低限の物は作れるようにもなってきた。 私は、あなたのお母さんじゃ無いんだけどね。 料理も掃除も、誰がしてもいいんだ。 でも、朝から母親の手料理なんて物を久しく食べていない。 我が家は、そんなもんなんだと、思う事にしている。 オムレツを焼き終えると、フライパンのまま伊織の前に置く。 すると、伊織は、焼けたパンにオムレツをドッカリとのせる。 その日の気分で、マヨネーズやらマスタードやらケチャップなんかを豪快にかけて、かじりつく。 朝からガツガツしてるんだ、高校生は。 若い…なんて思いながら見ていると、一瞬で消えるオムレツ達。 空のフライパンを見ながら、のんびりしていられない事を思い出す。
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