見えない壁

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洗い物は、帰ってからにしよう。 本当は、帰って来てキッチンに洗い物が残ってると気持ちが滅入るんだけど…。 学校の時間もあるしね。 今日は、早めに帰れるはずだから、帰ってからにしよう。 シンクにゴソゴソっと食器を置いて、ジャーっと水をかける。 母の都合上、洗い桶は置かれていない。 殆ど料理しないから、置いても文句は言わせないんだけど。 でも、無ければ無いになじんでいくもので。 階段に向かうと、食器を片付けようともせず、食べ終えた伊織とかちあってしまった。 「食器くらい運びな?時間あるなら、洗っといてくれない?私、急いでるから。」 先に階段の手摺に手を掛けながら、偉そうに言う。 その時、伊織が片眉を上げながら私の口元の傷を指差した。 「…善意と悪意の隙間。」 そうボソッと呟いてみる。 どうせ分からないだろうから。 誰も気付かないし、気付かせてもいけないのかもしれないから。 「また…飲み込む気?戦わないと変わらなくね?」 久々に聞いた伊織の声は、妙に低かった。 声変わりしてから、あんまり長い文章の声聞いてなかった。 男の子は、男の子なりの苦悩もあるんだろうか? そんな事をぼんやり考えてしまう。 「善意と見せ掛けた悪意は、悪意でしかない。」 そう言い残すと、手摺にあった私の手を身体で押し退けて階段を上がってしまった。 飄々としながらも、そこに居てくれるだけでいいのに、気付かれると、急に不安定になる気持ち。
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