悪意と善意

2/12
前へ
/33ページ
次へ
学校に着いて、授業のあるかなり大きめの講義室に入る。 いつも座る1番後ろの窓際は、座られていた。 友だち同士の集団で座る人。 友だちの席も取って座る人。 1人でポツンと座る人。 そんな色んな人たちの隙間の席に行く。 どこに座っても、1人は居心地が悪い。 探せば、隣に座らせてくれる程度の知り合いは居る。 でも、この授業だけは、静かに聴きたいんだ。 私が、この学校を選んだのはタダの偶然。 たまたま高校の時に、指定校推薦の枠に入り、その指定校がここだった。 お金をかけずに受験し、進学したい。 そんな思いと、やりたい学科があり、たまたま成績が足りていた。 周囲からは、ある意味で受験から逃げたとか、そんな目でみられたけど、それでも良かった。 貧乏って程では無いけど、長女たる性質か? 弟もいる。 あの子も進学するだろうから。 昔からワガママを言わない様にしている自分が居る。 何故そうしてしまうのかは、分からない。 でも、1番平和だろうという答えを見つけようとしている。 拓海の事も、従姉妹の事も。 哀しみを背負って生きる事を喜んでいたい人種なんだろうか? その割には、私を哀しませる人達よりは、眈々とした時間を過ごせている気がする。 そんな自分を離れて見つめられる時間。 この授業は、私の気持ちに近づける。 無意識や、夢の存在。 悪意と善意。 親子関係が及ぼす人格形成。 小難しいようで、結局は、人間は単純って話みたい。 それと、先生の声がいい。 柔らかく低く響く。 丁寧なのに、ちょっと威圧的な口調。 マイクを通して聴くと、語尾がボヤッとする。 電話越しだと、照れてしまうくらい低く柔らかいのに。 一度だけ、他の教授に頼まれて電話をかけた。 教授室の電話だから、助手の学生が出ると思っていたら、先生に直接繋がった。 たわいもない変更事項を伝え、電話を切る。 でも、その声が従姉妹の事でグチャグチャしていた気持ちをちょっとだけ真っ直ぐにしてくれた。 だから、気持ちの曲がった日は、先生の声をゆっくりと聴きたい。 好きだとか、そういうのではなく、柔らかな気持ちになりたくて。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加