悪意と善意

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授業が始まり、内容もそうだけど、先生の声に集中していく。 宗教における悪意への対応の仕方。 各宗教の発生した土地や気候を背景に、 説明が始まって行く。 やりたらやり返すのか。 やられても相手を愛すのか。 やられないように上手く立ち回るのか。 私の今、直面している問題に重なる。 四季を背景に揺れる気持ち。 日本人だもの、それでいいのかもしれない。 ただ、その四季に流されながら、悩めばいい。 悩む煩わしさは、生きる事。 人と関係し合いながら生きているという事。 でもさ、目の前の問題は、そんなんじゃ解決しないんだけどな。 でも、長い目で見ると四季に振り回される中で、時間は過ぎていてく。 気が付けば、日常は進んでいて、 気持ちも整理されていく。 自ら其処に居ようとしなければ。 って事? ふーんって、納得したような、してないような。 これも一つの考え方か? 納得できて居ないから、ずっと考えてしまう。 その考える時間や、友人と考えを話す事で、深まる授業。 先生の授業は、チャイムでは終わらない。 そんな時間が、私は好きだったんだけど、深く話せる北山くんとは、今話せる自信がない。 なのに、近づいて来る無意識の悪意。 「瑠衣、ここに居たんだ。一応、 席も取ってたんどけどね。」 背後からする声。 座れる訳ないのに、無駄な優しさを乱暴に振り撒いて来る。 「…そうなんだ、ありがとう。でも、遅くなって、始まる直前だったから、人が多くて分からなかったよ。」 事実のみを伝える。 本心は、伝えない。 振り返る私の口元に、黒目がちな目が集中する。 伸ばされて来た手を避けながら、口元を抑える。 「これ…ちょっと転けてさ。痛々しいけど、思うより痛くないんだよ?」 だからっ…私に気安く触れようとしないで? 好い加減に、お互いの距離を知ろうよ…。 黒目がちなな目が、私の背後を見詰める。 「瑠衣?今日こそは、飲み会に来いよ?」 サークルの副部長の、守屋くんだ。 「…えっ?バイトなんだけど?しかも、聞いてないし。また今度ね。」 北山くんから視界を外しつつも、気配だけは感じながら、ゆっくりと守屋くんに向き直る。 「えっ?聞いてないって…メールしたけど?」 片眉が歪むと、眉間に縦に深いシワが寄った守屋くんの表情は、いつもの事で。
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