揺らぐ男

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やっと やっと、隣に並ぶ事ができたのに 勢いのまま彼女に近づいたこの距離は 一息なんてついてる暇さえなかった ずっと探していた彼女への鍵 今まで思い出せなかったのが嘘のように蘇った過去は 俺が欲しかったもの じゃなかった… 黙り込んだ俺に じっと見入る彼女の眼 いつも遠い距離から覗いている姿を 手を伸ばせば触れられるほど近いのに 過去よりも短くなった髪 過去のあどけなさを失って 変わりに大人の色を放ち その眼は あの頃と変わってはいなかった 「……名前…」 ボソッと呟いた俺の問いに クスリと歪んだ唇 発せられたその名 「ディア…ディアーブル」 やっと手に入れられるのかと 僅かな望みは喪失感で満たされて それでも 「ディア…か」 妖艶に微笑んだ彼女からは名前も聞かれもしなかった   そんなもん、必要ないのだろう 誰にも関わらず きっと、週末だけ一夜限りのゲームを楽しんで たまたま今回選ばれたプレイヤーが俺   背後から感じる刺さるような男たちの妬みの視線に 自分も、本音も隠して  「行こうか」 彼女の腰に回した手が熱を帯びた
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