揺らぐ男

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またいつもと同じ距離 向こう側の歩道に、こちら側の俺 目の前のマンションまでもうすぐで 短い彼女とのデートは終わってしまった エレベーターに乗らずに階段を猛ダッシュして 息切れしたままベランダに直行 パッと点いた灯りに安堵して また彼女との繋がりが途切れた事に失望した 「ディアか…」 吸い始めた煙草の煙と共に その名は消えていった 朝方まで寝付けずに ようやくウトウトした頃に鳴った電話は母親からのもの 信用されていないのか、説教じみた声にうんざりして 「ちゃんと帰るよ」 と、そそくさと支度…はしたのか 部屋を出る前に彼女の部屋を確認すれば まだカーテンは閉じられているままだった 怠い身体を引きずって 新幹線に乗り込んで 向かう先は都会から三時間も離れた田舎町 褒める所なんて、のどか以外に浮かばないその場所に 彼女は帰らないんだろうかと どうやったって彼女中心の考えに深い溜め息 目を瞑り、昨日の彼女を思い浮かべたかったけれど 公共場所での反応に困るし 結局は彼女の過去ばかり考え始めて 寝不足の頭では上手く纏まらなかった 一つだけ確実なのは 嘘に乗っかって、またチャンスを待つしかない事だけ
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