107人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日、龍の姿は消えていた。
「兄上、龍がいなくなってる」
沙夜は起きてすぐ、高台を駆け登った。薊も彼女の後を追うように、桜木のもとへと向かう。
沙夜は落胆すると、小さく呟いた。
「――ここで遊んでたら、また来てくれるかな……」
🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸
――それから、薊達家族は龍の帰りを待つかのように、よく桜木の前へ行くようになった。
沙月と朱彦が仕事の日は薊と沙夜で花見をし、休日は家族4人で花見をした。
4人共、この桜木が、鬼桜が大好きだったのだ。
……だが、そんなある日、沙夜が重い病を患い寝込んでしまった。
熱が高く、咳もひどい。
月の無い夜だった。沙月と朱彦は薊に沙夜を任せ、急いで薬屋へ駆けつけ、沙夜の容態を説明した。
だが、薬屋はこう言った。
「鬼に売る薬なんざねぇ。さっさと帰れ」
朱彦の顔に血が集まる。思わず男の胸倉を掴んで、殴り掛かっていた。
激しい音を立てて、男は薬が並べられている棚に倒れ込む。物音に気がつき、奥から妻らしき女が出て来た。
「貴方!」
男に駆け寄り、助け起こすと、女は鋭い目付きで朱彦と沙月を見て怒鳴った。
「あんた達一体何なんだい! 此処は鬼に売る薬なんか持ち合わせていないよ、さっさと帰りな! あんたらの子供なんか死んでしまえばいいんだ!」
🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸
「……うえ……兄上…」
沙夜の呼び声に気付き、薊は慌てて沙夜に駆け寄った。
「どうした? 何か欲しいものでもある?」
尋ねると、沙夜はゆっくりと首を横に振り、木箱に挿されてある雛芥子を指差した。
最初のコメントを投稿しよう!