第四章

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「……あれ、取って……」 薊はすぐに雛芥子を手に取ると、沙夜の手に握らせた。 「ありがとう……兄上」 沙夜は笑顔でそう礼を言うと、雛芥子を大切そうに胸に抱き、目を閉じた。 ――カタリと戸が開く音がして、薊は沙月に尋ねた。 「……薬は…?」 沙月は、ゆっくりと首を横に振る。 「じゃあ、沙夜は……」 二人は布団の上で寝ている沙夜に近付くと、膝をついて何度も何度も謝っていた。 「ごめんね……ごめんね、沙夜……」 「……何もしてやれない……」 泣いていた。 それは、薊が初めて見た二人の涙だった。 「……母上、父上……泣かないで。沙夜大丈夫だから……沙夜、今幸せだから」 眠っていると思っていた沙夜はうっすらと目を開け、愛らしく微笑んでそう言った。 「沙夜……」 「みんな、沙夜のこと心配してくれてありがとうね……沙夜嬉しい……」 ――翌朝、沙夜は息を引き取った。 その胸にはしっかりと、あの真っ赤な雛芥子が抱かれていた。 呆気無い死だった。 儚い命だった。 結局、病名が何なのかも知らされずに、沙夜は天に召されていった。 三人は、誰にも汚されず傷つけられない山奥に、沙夜の為に小さな墓を作って弔った。 一輪の雛芥子も一緒に…… 人間など、信用するものか。 この世に、情けなど、神など、存在しないのだ。
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