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陽の光が、格子窓から射し込んでいる。
沙月は震えの止まらぬ手で、棚から小瓶を取り出した。
……薊の茶碗に、中の液体を混入させる。
「母上、何かお手伝いすることはありませぬか?」
背後で薊の声がして、沙月は思わず持っていた瓶を床に落としてしまった。
ガシャーンと、瓶が割れる音が響く。
幸いなことに、中にあった液体は既に空だったので、床にばら蒔かれずに済んだ。
「大丈夫ですか!?」
慌てたように薊は沙月に駆け寄ると、屈んで割れた瓶の破片を拾い集めた。
「だ、大丈夫よ……ごめんなさいね薊…」
沙月は手の震えを必死に押さえようと、左手で震えている右手の甲を摘まんだ。
――薊は、残すことなく、朝食を食べた。
何も不思議に思わなかったのだろうか……
沙月は黙々と箸を口に運ぶ薊を見て、そう思った。
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