第四章

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「上手くやったか?」 薊が外に出ている時、朱彦が沙月に尋ねた。 「……ええ」 「そうか……」 「あの子はこれで……幸せになってくれるのかしら……」 「“幸せ”は来ない」 「え?」 「不老不死の薬を飲んだ者に、幸せは来ないんだ。来るのは……生に対する飽きだけ」 「…そんな……」 「――それでも、こうするしか無かったんだ……我が子を守るにはこうするしか……」 朱彦はそう呟き、奥歯を噛み締めた。 その頃、村人達は全員、一つの屋敷に集まっていた。 「薬屋。それは本当なのか」 「ええ! 夫は胸倉を掴まれて殴られました! 確かに痣も残っております! あれは人に害を成す邪悪な生き物です!」 薬屋の女は、前に出て胡座をかいている男にそう叫んだ。 「ふぅむ……」 ――男の正体は、村を灰にし、新しい村を再建させたあの男だった。 男は顎に手を当て、暫し考え込み、そして言った。 「仕方がねぇ。あの夫婦を処分しよう」 その言葉に、村人達は興奮したように喚声を上げた。 「やろうやろう!」 「あんな鬼共消した方が正解だ!」 「みんなで協力してあいつらを処分しよう!」 だがその中でも一人だけ、反対する声があった。 「処分してどうにかなるのかい」 まだ二十歳前後の若い女。 それが、フミだった。フミは、何事もさばさばしていて勝ち気な性格だった。 「あたしゃ処分してもどうにもならないと思うけどね。そもそも薬屋が薬を売らなかったのがいけないんじゃないかい?」 フミは飄々と吐き捨て、屋敷を去って行った。 男はフミの言葉を全く以て無視すると、キセルを吹かしながら村人達に告げた。 「あの夫婦は高台にある桜木が好きらしい……今夜実行開始だ。月が隠れた時奴らに近付け。殺り方はお前らに任せる」
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