第四章

17/17
前へ
/118ページ
次へ
「ごめん、な……薊……。俺はお前を、幸せに出来なかった……」 「父上……?」 薊には彼が何を言っているのか分からなかった。 「ごめんね、薊、ごめんね……私、今朝貴方に…貴方の朝食に、不老不死の薬を入れたの」 沙月のその言葉に、薊は目を見開いて言葉を失った。 「ごめんね……ごめんね……」 沙月は涙を流しながら、ただひたすら謝った。 ふと、沙月の声がやんだ。 「……お前だけは……生き続けろ」 桜木についていた最後の花が、はらはらと舞い散った。 薊の頬に触れていた朱彦の右手は、力を失ったようにぱたりと地に落ちる。 周囲にいた村人達の姿は、いつの間にか消えていた。 (……やはり、そうか) ぽたりと、雫が落ちて、朱彦の血に汚れた頬を濡らした。 雨じゃない。 涙だ。 (この世には神などいない……救ってくれる者など、存在しない) ――薊は、声を上げて泣いた。 その涙と共に、薊の中にあった優しさも流れ出ていった。 ……薊の中に残ったのは、人間に対する憎しみだけ。 ――優しかった薊はもう死んだ。 憎しみだけで、生きてゆくしか無い。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加