第五章

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――非情を保て。心など捨てろ。 人間に情を持つな。 薊は、憎しみだけを研ぎ澄ませて、次々と人を殺した。憎しみだけを、生きる糧にした。 そうしなければ、長い長い時の中、気が狂いそうになる。 独りの夜、温もりが恋しくなる…… 🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸 ――50年近く時が経ち、薊はある童と出逢った。 まだ齢五、六歳の幼い少年。 薊は、少年の姿に沙夜の姿を重ねて見た。……だからだろう。桜木に近付いて来ても、刀で斬ることは出来なかった。 自分に寄って来た少年を、殺すことはしなかった。 「お兄ちゃん、そこで何してるの?」 少年はそう言って、薊に話し掛けて来た。 黒目勝ちな双眸で、じっと薊を見つめている。 「ねぇねぇ。暇なら俺と一緒に遊んでよ」 「…………」 ――子供に付き合うのは面倒だ。薊はそう思い、その場から立ち去ろうとした。 が、少年が言った。 「ねぇ、お兄ちゃん。俺達死ぬよ」 振り返って、少年を見る。 「この桜木に近付いたから、“桜木の呪い”で死ぬよ。お兄ちゃんは怖くないの?」 少年の顔は真剣で、その瞳は真っ直ぐと薊を見ていた。 …その瞳を見ていると、何故だか嘘をつけなかった。
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