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――非情を保て。心など捨てろ。
人間に情を持つな。
薊は、憎しみだけを研ぎ澄ませて、次々と人を殺した。憎しみだけを、生きる糧にした。
そうしなければ、長い長い時の中、気が狂いそうになる。
独りの夜、温もりが恋しくなる……
🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸🌸
――50年近く時が経ち、薊はある童と出逢った。
まだ齢五、六歳の幼い少年。
薊は、少年の姿に沙夜の姿を重ねて見た。……だからだろう。桜木に近付いて来ても、刀で斬ることは出来なかった。
自分に寄って来た少年を、殺すことはしなかった。
「お兄ちゃん、そこで何してるの?」
少年はそう言って、薊に話し掛けて来た。
黒目勝ちな双眸で、じっと薊を見つめている。
「ねぇねぇ。暇なら俺と一緒に遊んでよ」
「…………」
――子供に付き合うのは面倒だ。薊はそう思い、その場から立ち去ろうとした。
が、少年が言った。
「ねぇ、お兄ちゃん。俺達死ぬよ」
振り返って、少年を見る。
「この桜木に近付いたから、“桜木の呪い”で死ぬよ。お兄ちゃんは怖くないの?」
少年の顔は真剣で、その瞳は真っ直ぐと薊を見ていた。
…その瞳を見ていると、何故だか嘘をつけなかった。
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