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「ねぇお兄ちゃん。本当は俺ね……ここに来ちゃ駄目って言われてるんだ。桜木に近付いちゃ絶対に駄目だって」
「……それなのに何故、毎日此処へ来る」
「お兄ちゃんがいるから、かな」
少年はそう言うと、薊を見て悪戯にニッと笑った。
少年の名は、“又七”というらしい。
「お兄ちゃん、ここ座って」
いつものように原っぱの上に座り話し相手をしていたら、唐突に又七が立ち上がり、桜木の幹を指差して言った。
薊は奇妙に思う。
「……何?」
「いいからいいから」
「……分かった」
言われるがままに、幹に身体を預けるようにして座り込む。
丁度、二人の目線が重なる位置になった。
「じゃあ、目つぶって」
「は?……何故」
「いいから目つぶってよ」
又七の妙な頼みを不思議に思いながらも、薊は仕方無く長い睫毛に縁取られた目を閉じた。
――すると、唇にある感触が降ってきた。
柔らかく濡れたそれは、初めての感触で最初何なのか分からなかった。
だが。
唇をこじ開けるようにして口内に入ってきたそれに、やっと気付いた。
又七が、唇を重ねていたのだ。
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