第五章

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「ねぇお兄ちゃん。本当は俺ね……ここに来ちゃ駄目って言われてるんだ。桜木に近付いちゃ絶対に駄目だって」 「……それなのに何故、毎日此処へ来る」 「お兄ちゃんがいるから、かな」 少年はそう言うと、薊を見て悪戯にニッと笑った。 少年の名は、“又七”というらしい。 「お兄ちゃん、ここ座って」 いつものように原っぱの上に座り話し相手をしていたら、唐突に又七が立ち上がり、桜木の幹を指差して言った。 薊は奇妙に思う。 「……何?」 「いいからいいから」 「……分かった」 言われるがままに、幹に身体を預けるようにして座り込む。 丁度、二人の目線が重なる位置になった。 「じゃあ、目つぶって」 「は?……何故」 「いいから目つぶってよ」 又七の妙な頼みを不思議に思いながらも、薊は仕方無く長い睫毛に縁取られた目を閉じた。 ――すると、唇にある感触が降ってきた。 柔らかく濡れたそれは、初めての感触で最初何なのか分からなかった。 だが。 唇をこじ開けるようにして口内に入ってきたそれに、やっと気付いた。 又七が、唇を重ねていたのだ。
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